教室で不審者に拳銃を突きつけられた話
数学の授業を受けている時のことだった。
いきなり、拳銃を持った男が教室の中に入ってきた。
恐怖のあまり声が出ないのは僕だけじゃないらしく、クラス全体が静まり返っていた。
「誰を撃つ気なんだろう」
「頼むから僕は打たれませんように」
「こんな所で死にたくない!」
意味もなく思考が空回りする中、その男は着実に僕の目の前までやってきた。
そして、こめかみに銃口を突きつけられた。
恐怖が絶望に変わったのだろう、僕の心中はすでに「あー死んだ死んだ」と棒読みするのみと化していた。
カチャッ。
安全装置が外れる音が聞こえた瞬間、僕はある名案を閃いた。
「俺にも、誰かを殺したいくらい恨んだことはある。けど結局、僕はそいつを許した。許す瞬間は死ぬほど苦しかったけど、完全に許すことができた時、心がスーッと軽くなったんだ。復讐を実行すると絶対に手に入らなかったはずの楽な気持ちになれて、心底『殺さなくて良かった』と思ったよ」
そう、僕が閃いた案とは、「拳銃を突きつけて来ている男の感情を徹底的に揺さぶり、引き金を引けなくさせること」だったのだ。
「お前に何が分かる」とキレられたら今度こそ終わり。それを覚悟した瞬間、以外にも男は拳銃を下ろした。
作戦成功のようだ。
彼は言った。
「お前は、俺がお前を許すことで俺が楽になれると保証出来るのか。楽になれなかったら、その時は今度こそお前を殺すぞ。」
もちろん、そんな保証はできない。
そもそも、「殺したいくらい恨んでいた相手がいた」ということ自体うそなのだから。
だが保証しなければ殺されるタイミングが少し早くなるだけだ。
ならば、背に腹は変えられない。
「保証する。」
数分後、男の心は実際に晴れたのだろう。男は、僕と肩を組んだ。
その瞬間、目が覚めた。
夢オチだった。
こんなとんでもない悪夢だったこともあり、目覚めた時僕の心臓は激しく脈打っていた。
布団の中で僕は、どうしてこのセリフを言うに至ったのか思い返していた。
拳銃を突きつけられた時の僕の思考回路はこうだった。
「これがハッピーエンドの物語だとして、今の状況を読者として俯瞰したらどうなるだろう。おそらく、この拳銃を突きつけている男は過去に深い心の傷を負っていて、主人公がその心の傷に言及して男を反省させるシーンのはずだ。その後みんな仲良くなってハッピーてな訳だ。問題はどうやってこの男の過去を引き出すかだが、、、」
そう、完全に自分が置かれた状況をメタ的に考察する事で、最適な行動をとれたのだ(夢の中だけど。)
だから、僕はこのことを声を大にして言いたいと思う。
「メタ思考は身を助く」